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2011/04/06

イタリア愛護動物繁殖防止法とその後の課題

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イタリア愛護動物繁殖防止法とその後の課題

                             おかめ

 イタリアは「愛護動物及び飼い主のいない犬猫の繁殖防止に関する法(1991年法律第281号)」をもって愛護動物の致死処分を禁じ、他国に先駆け徘徊犬・野良猫の殺処分放棄(いわゆるno kill施策)を実現した国である。むろん現在も捨て犬猫は後を絶たず、旧東欧から違法に輸送される仔犬の闇市場、南伊で頻発する野犬による襲撃、被害者による市や州を相手取った訴訟事件等、深刻なトラブルもなくならない。地域によって法整備や施行の遅れも見られる。問題が山積するなか、しかし大切なことは、国をあげて、殺処分を含む動物への残虐行為を放棄した、という事実である。この法律の条文をご紹介し、施行後に生じた問題と今後の課題について述べることにより、我が国の動物行政の見直しに向けて一考を促したい。

 


1.    愛護動物繁殖防止法

 イタリアではここ20年のあいだに動物愛護に関する法令が幾つも公布された。まず、イタリア動物行政の礎石となった、「愛護動物繁殖防止法」の内容を確認しておこう。

(イタリアは20の州に分かれ、その下に110の県が、続いて8094の市町村がある。地方自治が進み、国に対する各州の自立度は高い。)

1条(総則) 国は、愛護動物の保護を推進し、かつ監督する。また、人と動物との適正な共生を目指し、国民の健康と公衆衛生を守るため、愛護動物に対する残虐行為、虐待、遺棄を犯罪とする。

●第2条(犬その他の愛護動物の取り扱いについて)

第一項 出生制限による犬猫の頭数管理は地域保健部門の獣医療セクションで科学的知見に従い実施される。飼い主あるいは管理者は、愛犬協会や動物愛護団体の提携獣医または開業獣医に自費で依頼できる。

第二項 第4条第1項規定の保護施設に捕獲収容された犬を殺傷してはならない。

第三項 捕獲犬及び第4条第1項規定の保護施設               の収容犬を動物実験に使ってはならない。

第四項 規定に基づき刺青識別された捕獲犬は、もとの飼い主あるいは管理者へ戻される。

第五項 捕獲犬及び第4条第1項規定の保護施設の収容犬のうち、刺青識別されていないものには、刺青識別をしなければならない。60日以内に飼い主による異議申し立てがなければ、狂犬病予防およびエキノコッカス他、人畜共通感染症対策を事前に行ったうえで、適正飼育を保証する民間人、各種動物愛護団体に譲渡ができる。

第六項 1954年共和国大統領令第320号のアニマルポリス施行規則、第868791条に規定された安全措置に基づき、第4条第1項規定の保護施設の収容犬は、回復の見込みのない病気や怪我を負っている場合、あるいは危険が立証される場合のみ、獣医師によって安楽死させることができる。

第七項 何人も野良猫を虐待してはならない。

第八項 野良猫は地域を管轄する保健業務担当機関autorita’ sanitaria competente per territorioにより不妊手術を施術され、もとのグループに戻される。

第九項 野良猫は重病または治る見込みのない傷害の場合を除き殺処分してはならない。

第十項 各種動物愛護団体は、地域保健部門unita’ sanitarie localiと申合わせ、野良猫のコロニーに対して、給餌給水・健康管理を含めた生命保持の為の管理を行うことができる。

第十一項 各種動物愛護団体は、地域保健部門の獣医療セクションの衛生管理の下、第4条第一項規定の保護施設を管理運営できる。

第十二項 第4条第一項規定の保護施設では、飼い主のいる犬を有料で収容できるものとし、また、救急外来も受け付ける。

●第3条 (州の責務について)

第一項 各州はそれぞれの州法で、当法の施行から半年以内に市町村単位あるいは地域保健部門単位で畜犬登録制度を設ける。また、各州は犬の飼い主あるいは管理者に発行する畜犬登録申し込み書の様式及び無痛刺青による個体識別番号発行書の様式を整備する。

第二項 各州はそれぞれの州法で、当法の施行から半年以内に、市町村の犬保護施設の改修、犬のシェルター建設に向けた指針を定めるものとする。それら施設は、犬の生命にとっての好条件、及び健康・衛生基準の充足を保障するものでなくてはならない。施設の衛生については地域保健部門の獣医療セクションの管理下に置かれる。州法は、さらに管内の市町村の参加のために、市町村間の責務・権限の配分の規則を明確にする。

第三項 各州は当法の施行から半年以内に、それぞれの州で活動する動物愛護団体、猟友会と協議の上、飼い主のいない犬猫の繁殖防止計画を策定する。

第四項 第三項の繁殖防止計画は以下の施策を含むものとする:

a)動物の生命に対する尊重、その生活圏の保護などの、人と動物の正しい関係を認識できるようになるための、学校教育における啓発活動の推進

b)当法が言及する各州職員、各市町村職員、各地域保健部門職員のほか地域保健部門や市町村に協力する民間動物愛護ボランティアを対象に実施するフォローアップ研修及び教育

第五項 各州は、畜産上の財産の保護を目的として、野犬によって被害を受けた畜産農家に対しては、地域保健部門の獣医療セクションによる証明をもとに、家畜の被害頭数に合わせて補償する。州の責務を実現するため、各州は第8条第二項に規定された省令により配分される助成金の25%を超えない額を投じることができる。残りの額は、各地方公共団体の責務の実現の拠出金として州から各地方公共団体へ割り当てられる。

第六項 特別州とトレント、ボルツァーノ自治県は、当法の原則に自らの法令を合致させ、本条の基準に従い、飼い主のいない犬猫の繁殖防止計画を策定する。

●第4条 (市町村の責務について)

第一項 個々の、あるいは連携した市町村、そして山岳共同体は、州法に定められた基準に従って、州からしかるべき目的で配当される拠出金を用い、既存の市町村の犬保護施設の改修を行い、犬のシェルターを建設する。

第二項 市町村担当部門、地域保健部門の獣医療セクションは、動物の扱いについて、第2条に規定された条項に従う。

●第5条 (罰則)

第一項 犬・ねこ・その他自らの住居において世話をしていた動物を遺棄した者は、30万リラ以上百万リラ未満の罰金の処罰を受ける。

第二項 第3条第一項規定の畜犬登録を怠った飼い主は、15万リラの罰金の処罰を受ける。

第三項 第二項規定の畜犬登録を行いながらも刺青識別を怠った飼い主は、10万リラの罰金の処罰を受ける。

第四項 動物実験を目的に犬猫を売買した者は、現行法違反で5百万リラ以上1千万リラ未満の罰金の処罰を受ける。

第五項削除。

第六項 第一項、二項、三項、四項に規定される罰金収入は、第8条に定められた当法の実施のための助成金に投入される。

●第6条 (ペット税)

第一項 犬の飼い主は等しく年間25.000リラの市町村税を支払う。

第二項 すでに納税された犬を入手した場合は新たに納税する必要はない。

第三項 免税対象:a)盲導犬、牧羊犬 b)その市町村での滞在期間が2カ月に満たず、ほかの市町村でペット税を納税済みの個人が連れている犬 c2カ月未満の授乳中の仔犬 d)軍用犬、公安警察犬 e)営利目的でない動物保護協会、動物愛護団体の運営する施設に収容された犬

●第7条 (法令の廃棄)省略

●第8条 (法の実施のための基金の設立について)

第一項     1991年度会計年度から、保健省のもとで当法の実施のための助成金が設立される。その金額は1991年度に10億リラ、1992年度以降は20億リラとする。

第二項     保健省はその省令により、年度ごとに各州及びトレント、ボルツァーノ自治県に対し、第一項に規定された助成金を配分する。配分金の算定基準は財務省と協議し、1988年法律第400823日施行第12条に規定された「国・州およびトレント、ボルツァーノ自治県の関係のための常任委員会」の審議にかけた上で、保健省の省令に基づいて定められる。

●第9条  (財政支援)

第一項     当法の責務遂行に着手するため、1991年度には10億リラ、1992年度及び1993年度にはそれぞれ20億リラが投じられる。199193年の3カ年度予算編成のために、財務省1991年度予算第6856章に記載された準備金を運用し、「飼い主のいない犬猫の繁殖防止」助成金制度を設立する。

第二項     国庫大臣に国庫省の省令により予算を調整する権限が付与される。

2003年以降、識別法としての刺青は廃止された。

TNR(野良猫の捕獲・手術・もとの場所に戻す)、いわゆる「地域猫」が法令で明文化されている。

2 施行後の課題

2-1 施行後の混乱

前掲の「愛護動物繁殖防止法」のポイントは、愛護動物を理由なく殺処分しないこと、市町村による動物保護施設の整備、繁殖防止プログラムの策定、個体識別・登録に州・国をあげて取り組むことにあった。これを受けて各州は、それぞれ州法を策定した。

ただ、順調な滑り出しというわけにはいかなかった。1991年に愛護動物繁殖防止法が出来たはいいが、法の存在が全国的に認知されるには数年を要したのである。半年後、つまり1992228日に施行されるはずであったこの法律について、まずは州の側からの理解が不十分であった。特にイタリア南部では足並みに遅れが見られた。

州、市町村それぞれの管轄の境界線があいまいで責任の所在が不明瞭だったことも混乱の理由のひとつだった。例えば保護された犬猫が住民に危害を加えた場合、責任の所在は州にあるのか市にあるのかさえ当初は明確でなかった。破毀院2002年判決第10638号で、野良犬猫の不妊手術や頭数管理、愛護動物登録データバンクの整備に関しては州の獣医局ASLが責任を持ち、住民の身体の安全(共和国憲法第32条)と公衆衛生の維持管理に関しては市町村が責任を持つことが明確にされた。続いて2007年破毀院の判決第68号では、野犬による咬傷被害があった場合、市でなく州のASLが責任をとるべきことが明らかにされた。

また、残念ながらこの法律は極めて低く評価されていた。国は、この法に効力を持たせるため事業実施に要する経費の一部を助成金として各州へ配分したが、その交付額が少額だったことが低評価の理由にあげられる。各州・市町村は、法律に謳われた個体識別や登録制度の整備、そして犬猫収容施設の増改築のための財源確保に奔走しなければならず、少なからず混乱に陥った。国の助成制度に加え、州・市町村独自の助成制度がなくては到底成り立たない。地方負担を前提とするがゆえの混乱であったといえる。

2-2 施行当初の国・州による事業費

じっさい、愛護動物繁殖防止法に基づく事業のために、1991年から98年の8年間に国・州が投じた金額は6566千万リラにのぼる。支出内訳は81.7%が犬猫収容施設の整備、残り18.3%が個体識別導入、犬の捕獲と不妊手術、野良猫のTNR、野良犬による家畜等への被害への弁償、啓発活動等となっている。国の助成金が少額だったせいもあり、市町村はどこも財政難の悲鳴をあげて、収容施設建設に取り組んだ。しかし、2001年の保健省通達のなかで当時の保健大臣ヴェロネーズィ氏は、愛護動物繁殖防止法の総則と第2条第11項、第41項をあげ、「犬猫収容施設の管理については経費節減を第一とすべきでない。法律の総則に基づき、あくまでも収容された動物の福祉を最優先し、動物の保護を目的として活動する愛護団体・法人を適正に選別して保護施設を管理委託しなければならない」と述べている。また、愛護動物の避妊去勢手術についても「社会環境保全のために多大な効果をもたらす行為であり、文明国であれば原理原則のはず」とも言い切った。

2-3 国からの助成金配分額の算定方法

各州の取り組み状況を表す下記の要素により、国から州への助成金配分額が決まる。

①保護施設収容の犬猫の頭数に基づく分30

②個体識別データバンク登録数に基づく分40

③人口比率に基づく分 30

各州は3月末日までに保健省へ前年度の事業報告を行い、保健省は4月末日までに助成金総額と各州への配分額を発表し、州は3か月以内に野良犬猫繁殖防止プランを策定する。(2007年以降、助成金の6割を飼い主のいない犬猫の不妊手術と頭数抑止に使わなければならない、という規定ができたためである。)

助成金の概算は2005427万ユーロ、2006399万ユーロ、2007498万ユーロ、2008308万ユーロであった。懸念されるのは、2008年から2010年の3年間で合計500万ユーロものの大幅な助成金の減額があった事実であり、動物愛護団体等から抗議の声があがっている。

2-4 1995年以降、広がる地域差

1995年あたりから州独自の財源確保により、また、国から支給される助成金の増額により、成果をあげる州も出てくるようになった。それが他の州のモデルとなり、さらに相乗効果をもたらした。前述のように、不妊手術頭数・野犬収容の実績をあげるほど、翌年度の助成金支給額も増額されるシステムである。その分、施策の遅れた州はますます助成金の算定額も低くなる、という悪循環に陥ってしまう。経済力を有し組織運営に優れた北部の州は、里親譲渡や市民への啓発も活発で、野良犬猫の頭数抑止にめざましい効果を上げている。その一方で南部では野犬が多く、地域によっては住民が猟銃や棍棒で自己防衛せざるをえない。市職員による助成金横領の疑いがあるのも残念ながら南イタリアの市町村である。

保健省のHP上での発表では、2007年度の保護施設の犬の収容頭数は、多い州からロンバルディア州で12.372頭、ピエモンテ州で9.518頭、ヴェネト州で9.499頭、と続くが、南部モリーゼ州は284頭。野良猫の不妊手術の頭数は、ヴェネト州が9.137頭、トスカーナ州が7.874頭、ロンバルディア州が6.728頭、と続き、南部モリーゼは0頭。長靴形半島のつま先にあるバズィリカータ州やカラブリア州は報告自体が上がっていない。

2-5 2003年以降の動向

動物愛護政策はAzienda Sanitaria Locale(州の保健センター、以下ASLという)の獣医療セクションが中心に行っている。ASLに所属する行政獣医師が、市町村やENPA(国立動物保護協会)等の動物愛護団体と連携し、野良犬猫の不妊手術やマイクロチップ挿入等畜犬登録データバンク整備を行う。

2003年には「保健省および各州・自治県の協定書」に基づいて、犬の個体識別に(それまでは刺青も使われていたが)マイクロチップを導入し、保健省が中心となって国家レベルのデータバンク化を急いだ。マイクロチップによるデータバンク情報管理システムは、逸走時の照合、飼い主の海外渡航の同行犬へのパスポート発行、といった実務面のみならず、犬の頭数把握や野犬の抑止、捨て犬防止、といった政策面においても、唯一有効な手段であるとされている。

また、2004年制定の法第189号では愛護動物の殺害、虐待行為、闘犬等が禁じられ、それに対する罰則(2カ月以上3年未満の拘禁、3千~16万ユーロの罰金)も設けられた。刑法第727号は愛護動物の遺棄に対し1年以下の拘禁、千~1万ユーロの罰金を定めている。この法律で、イタリアは商業目的での犬猫毛皮使用を禁じた欧州最初の国となった。(遅れてECでも20071211日欧州規則第1523号で、犬猫の毛革を含む製品の輸出入を禁じている。)

3 愛護行政は新たなステップへ

3-1 法整備とTASK FORCE 2010

2009716日第207号「保護施設の福祉と保護に関する緊急省令」には、全国の保護施設に対し、犬の移動時間を考慮して捕獲場所に近い施設に収容すること、収容から60日以内に不妊手術を行うこと、週に3日以上の一般公開、収容頭数の上限(200)等、具体的な運用上の細則が盛り込まれた。譲渡に関する告知法(入口に新しく入所した犬猫のポスターを掲示し、またHP等を通じて情報発信する)や、月に最低1度の健康診断、犬を移動させたら必ずASLに情報提供すること等も規定されている。施設の衛生管理、動物福祉への配慮、繁殖防止に関する責任は州のASLの行政獣医にあることが改めて確認されたことになる。

2010年には法令の順守と実行力のある動物保護を目的に、獣医師と行政司法職員とで構成されるアニマルポリス的任務を帯びたタスク・フォースが結成された。州を越えた法的サポートや動物虐待防止のための監視活動を展開している。

3-2 欧州条約、欧州規則を批准

イタリアは、19871113日ストラスブルグ欧州会議で署名開放された「ペット動物保護に関する欧州条約」および、EC(欧州連合)域内の愛護動物の輸送規制を定めた「2003526日欧州規則第998号」の批准を、2010114日首相勅令第201号によって、ようやく完了した。

これにより、個人であれ団体であれ、個体識別マイクロチップ・健康証明書・パスポートを持たない愛護動物を国の領域に持ち込んだ者も受取った者も、等しく3か月~1年の拘禁と3千~1万5千ユーロの罰金刑に処されることになった。生後12週未満であればさらに重い罪だ。動物取扱免許の剥奪はもちろんである。東欧から違法に持ち込まれ、闇で売買される幼齢の仔犬たち(先天性の病気や感染症を持つことが多い)の多くが到着前に輸送トラックの荷台で亡くなっているという事件はイタリアでも問題視されてきたが、これでやっと法規制がかかる。

以上、問題を抱えつつも前に進もうとするイタリアの動物行政の一端をご紹介した。






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以上、環境行政改革フォーラム論文集(2011年3月刊行)への投稿記事です。少しずつまとめ始め、レポートにしました。細かな訳語に間違いがあるかもしれませんが、どうかご容赦下さい。(3月26日(土)に東工大で研究発表会が予定されていましたが、震災のため中止となりました。)



 

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